詞乃端のオススメ本感想書き殴り+α

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『白銀の墟 玄の月 ―十二国記―(三)・(四)』/小野不由美

白銀の墟 玄の月 第三巻 十二国記 (新潮文庫)

白銀の墟 玄の月 第四巻 十二国記 (新潮文庫)

あらすじ

こちらの世界と「蝕」と言う現象を通して繋がる、十二の国からなる世界。

その世界では、天から下された霊獣である麒麟きりんが王を選び、王の存在が国の安寧を担う。

 

冬の極寒にさらされる戴国たいこくでは、いまだ、天意を受けた王が玉座に戻っていない。

そして、んだ傀儡くぐつ徘徊はいかいする王宮に帰還した麒麟は、ままならぬ現実にはばまれながらも、民を救うために足掻あがき続ける。

 

一方、主君を探し続ける女将軍は、彼女の王と同じ特徴を持つ男の命が、すでに絶えていたことを知らされる。

 

国は、民は、彼等の行くすえは、――。

 

感想

ようやく読めた、十二国記最新刊の続き!!

 

綿密な伏線ふくせんとどんでん返しの展開、丹念に描かれた人々の境遇と心情は、文庫本四巻分の文章量になるのもうなづける。

何気なく描写され、後から意味を浮かび上がらせるものがいくつもあるので、今作は、何度も読み返す価値があるのだ。

 

一、二巻でとにかくまどわされたが、だからこそ、三、四巻で徐々じょじょに謎が明かされていく過程が、いっそ清々しくもある。

また、「魔性の子」をはじめとする、これまでの物語の欠片があちこちに散りばめられ、一文だけでも感慨かんがい深い。

 

正直、自分はホラーが苦手で、「魔性の子」も、十二国記シリーズの他の作品と同じように楽しめた訳ではないが、「魔性の子」あっての本作だと、強く思った。

慈悲じひの生き物とは言いがたい、したたかな泰麒たいきの言動は、ひとえに蓬莱ほうらいでの一連の出来事が下地となったのである。

作中でも触れられているが、過去があっての今であり、今作を先に読まれた方には、戴国がから十二国記シリーズの物語もぜひ読んで頂きたい。

 

 

また、今作を読み、妖魔や不可思議が跋扈ばっこしていても、十二国記シリーズはあくまで人間の物語であると、より一層感じさせられた。

泰王や女将軍をはじめとした登場人物たちは、立場や思惑おもわくの中で対立していても、完璧かんぺきな正義でも完全な悪でもない。

泰王をおとしいれた新王でさえ、行動した理由は、ひどく人間らしいものだと思われた。

 

選ばれなかったから、転がり落ちたのか。

転がり落ちるから、選ばれなかったのか。

 

十二国記シリーズの世界観の根幹をなす「天意」は、まだ曖昧あいまいで理不尽なものだが、新王の姿に、他作品の登場人物たちが重なる。

そして、並び立つ好敵手との在り方の違いと、誰の味方とも判然としなかった、冬官の長の指摘が、解答であるのだろう。

十二国記シリーズでは、「道」という言葉がたびたび使用されるが、確かに新王は、道を見失っていたのだと思われた。

 

――道と共に、自分を慕う者たちの姿も、また。

 

過去の行いが今に収束していく様には、手に汗握ったが、それゆえに、明暗を分けた、在り方の差異が際立つ。

 

王に対し、民の様子も丹念に描かれているのが今作の特徴だが、民に対する女将軍の言動も印象に残った。

軍人である前に、泰王の臣であることを優先してしまいがちな彼女だが、だからこそ、民の保身を許容する彼女の姿が、心に迫る。

 

民、と一言で言っても、立場や境遇は多彩だ。

誰かを助けようと奮闘する者ばかりでもないし、しいたげられている者誰もが、綺麗きれいな手をしている訳でもない。

無力な彼らが、世界の無情を示すこともあった。

けれど、自分の選択で精一杯生きている彼らが、空虚くうきょな箱庭ではない世界を形作っているのだと、感じられた。

 

とにかく、行間などに想像をかきたてられたので、2020年に刊行予定らしい、書き下ろし短編の発売はまだかと、ゴロゴロしている。