七つの魔剣が支配する/宇野朴人
あらすじ
名門キンバリー魔法学校の春。
今年もやってきた新入生たちを迎え入れるのは、満開の桜が舞う街道と魔法生物たちのパレード。
魔法使いの卵たちが希望に胸を躍らせるのも束の間、とある事件に巻き込まれる形で彼らは出会う。
面倒見が良いけれど、笑いのセンスはビミョウな主人公、オリバー。
動物好きで、正義感と負けん気の強い心優しき少女、カティ。
実家は魔法農家、明るく気さくなムービーメーカー的存在であるガイ。
普通人の家庭出身であり、勤勉で実直な性格のピート。
旧家の血を引き、誇り高くも他者を認めることができるシェラ。
――そして、東方からやってきたサムライ少女、ナナオ。
『好きにやって好きに死ね』
(本文より)
卒業までに約二割の生徒が命を落とす、
生徒を飲み込む地下迷宮や怪物めいた上級生、亜人を巡る派閥の対立などの荒波を乗り越えながら、六人は少しずつ
――そしてまた、密やかに始まるものが。
感想
祝☆「このライトノベルがすごい!2020」(以下「このラノ2020」)、文庫部門第一位!!
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宇野先生の前作である、「ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン」の最終巻に一部掲載されるという、
「このラノ2020」、「七つの魔剣が支配する」(以下「ななつま」)だけでなく、「Unnamed Memory」が単行本・ノベルズ部門第一位になったりと、押しのラノベが色々ランクインとか紹介されていたりしていて、チョー嬉しいっ!!
(満面の笑み)
さて、「ななつま」は、名門の魔法学園を舞台にしたダークファンタジーだ。
魔法学園と言えば、世界的に有名な某作品がありますが、それに負けない独自色を出しているのが、宇野先生のすごいところ。
本作品のキーワードの一つが、一足一杖。
――それは、呪文が意味を失い、刃の応酬が取って代わる間合いである。
主人公・オリバーとヒロイン・ナナオが、ガチで切り結ぶ表紙のイラストの通り、「ななつま」では、戦闘において、魔法だけではなく剣――
答えは簡単。
ある間合いより内側では、呪文を唱えるより、剣で斬る方が早いから。
身も
東方出身のサムライ少女であるナナオは、刀に熟達し、魔法使いとしての天与の才も有している。
生粋の武人である彼女は、戦闘においては頼もしいの一言だ。
しかしながら、戦国時代真っ盛りな彼女の故郷の
――復讐の剣は愉しからず、相愛の剣こそ愉しけれ。
(本文より)
ぶっちゃけると、ナナオは『殺し愛』系ヒロインです。
敵でもないのに、むしろ尊敬できる仲間なのに、明るく無邪気に『殺し愛しようね(は~と)』って、主人公にお誘い仕掛ける子、初めて見たわ……。
敬愛する相手と、どちらかが死ぬまで斬り合う仕合せ。
過酷な世界で生きていたナナオには、それは求められるだけでも幸いなもので、非常に根深いものがある。
その育ちのせいか、思考や振るまいが武人であるナナオも、オリバーに即行で振られてヤケになったところは、乙女だと思いました。
突出した剣技の一方、馴染みがなかったせいで、魔法はまだまだ未熟なナナオとは対照的に、オリバーの戦い方は、よく言えばいぶし銀で、悪く言えば器用貧乏。
ナナオとの共闘の場面では、彼女を絶妙なフォローで手助けもしている。
オリバーとナナオは、互いを補い合うような関係になっているのに、なんで『殺し愛』に向かうんだナナオちゃん……。
『殺し愛』に関しては、ナナオが悪い訳ではないのが悩ましい。
ちなみに、オリバーの器用貧乏ぶりは、面倒見の良さから日常生活でも発揮されており、オリバー自身の成果ではなく、誰かのフォローで彼が評価されるという。
でも、お笑いに関してはその器用さを発揮できないオリバー、ふびん。
そんな優等生的なオリバーであるが、あるいは仲間の中で誰よりも魔法使いらしいのかもしれない。
「ななつま」の世界において、魔法とは、夢の国のキラキラした不可思議ではなく、『魔』の法である。
それを体現したような魔境であるキンバリーは、教師も生徒もキャラが濃い奴ばっかりな上に、諸々の意味でぶっ飛んでいるのが多過ぎ。
文字通り弱肉強食な校風ゆえの名門からか、キンバリーでは、通常の倫理感を維持するだけでも大変だ。
――『優しさ』は、それ以上に。
キンバリーの亜人に対する風潮にぶつかっていくカティのエピソードでは、カティへ語られたオリバーの台詞が印象的だ。
『優しくあることが厳しい世界で』、優しさを抱えて歩いていく尊さ。
オリバーやナナオだけでなく、彼らの仲間たちは皆、魅力的なのである。
特にシェラさんは、新入生にもかかわらず、すでにいい女だと思います。
そして、いい女過ぎて、シェラさんの意思とは無関係に、彼女に近しい人間の劣等感を刺激してしまう描写にも、リアリティを感じました。
魔法世界の縮図のようなキンバリーと、個性豊かな登場人物たちが生き生きと描かれているところが、「ななつま」の好きな部分です。
また、巻末のどんでん返しに、タイトルが絡めてあるのがすごく良いっ!!
冒頭の不穏はそこへ行きつくのかと、意表を突かれました!
――過酷ながらも時に
七つの魔剣や
追記2020/11/13
六巻&コミカライズ発売中!!