『白銀の墟 玄の月―十二国記―(一)・(二)』/小野不由美
あらすじ
こちらの世界と「蝕」と言う現象を通して繋がる、十二の国からなる世界。
その世界では、天から下された霊獣である麒麟が王を選び、王の存在が国の安寧を担う。
王不在の六年を、人々は極寒と貧しさにさらされながら生きてきた。
王と麒麟を案じる女将軍は、他国の景王、延王の助力を得て、あちらでは蓬莱と呼ばれるこちらの世界から、戴国の麒麟――泰麒を連れ戻すことが叶う。
そうして、今、戴国に麒麟は帰還し、王は――。
感想
続きを読むことを諦めかけていたので、十八年ぶりの新作に、神様、作者様ありがとうっ!!! と、なりました。
天災によって、貧困によって、妖魔によって、――無慈悲に人々の命が奪われる、ダークな世界観がこれでもかと滲みだしている今作。
戴国の民の辛苦が折り重なり、それでも、読む手を止めさせない文章の魅力と、いくらでもひっくり返されそうな予想できない展開が面憎い。
政の放棄や天災などに翻弄される市井の人々の悲嘆と、それでも生き、他者を助けようとする意志と。
女将軍李斎の、国の上層部としての視点と同時に、その他の階層に属する人々の様々な面を丹念に描いている。
一方、政の中心であるはずの王宮は、不気味な空虚さに浸食されている様に思われた。
玉座を奪い取りながら、政を治める気配のない仮王の本心は窺えず、ぽつりぽつりと傀儡の様になる官吏達も薄気味悪い。
また、麒麟が、人とは決定的に異なる存在であると感じさせられる場面があり、その伏線が何処に向かうのかも気になるところ。
――浮かび上がった可能性は、誰にとっての幸福なのか?
幾人もの登場人物、それぞれの選択の結果が、来月にならないと分からないのが口惜しいですよっ!!
戴国の現状を丁寧に描いているからこそ、文庫本四冊分もの分量になったのでしょうが、月をまたいで刊行されると、続きが気になり過ぎて涙目になるんですけど……。